
歯医者のいない島で
大好きな番組の一つに、NHKの「ドキュメント72時間」があります。
今回取り上げられていたのは、鹿児島県の三島村を巡る離島歯科診療。タイトルは「鹿児島 歯医者のいない島で」でした。
鹿児島、離島、そして歯科。
僕にとって思い出深いものが三つも重なった回です。これはみなければ。
僕も学生時代、同級生と一緒に鹿児島の離島診療プログラムへ参加させていただいたことがあります。鹿児島大学の各診療科の先生方や研修医、歯科衛生士、学生たちがチームを組み、夜中の港を出発。翌日のお昼ごろ、トカラ列島の島に到着したように記憶しています。
歯科医師が常駐していない島での診療は、いつもの診療室とはまったく勝手が違います。
当然、歯科医院にあるような診療台はありません。公民館などにパイプ椅子や机を並べ、持ち込んだ機材を設置して、即席の診療室を作ります。限られた器具と限られた時間の中で、使えるものは何でも使う。予定どおりにいかないことも多く、そのたびに工夫と試行錯誤を重ねながら診療が進んでいきます。
普段は大学病院の手術室で手術をしている口腔外科の先生が、島では入れ歯の調整をしていました。当時の僕には、その姿もとても新鮮でした。
専門がどうこうというより、自分のできることをする。設備や材料が十分にそろっていなくても、知識と経験を総動員して方法を考える。その姿に驚くと同時に、資源の限られた環境で工夫しながら診療することに、どこかワクワクしていたのを覚えています。
僕はまだ学生で、臨床経験もほとんどありませんでした。それでも十分に役割を与えてもらえるほど、とにかく人の手が必要でした。機材を運び、診療の準備をし、片づけをする。今思えば小さな仕事ばかりですが、自分もチームの一員として診療を支えている実感があり、とても充実した経験になりました。夜は、歯科医療チームのために宴会の場を準備してくださり、とれたての魚を振る舞っていただきました。
島では、数日に一度、フェリーが港へやってきます。このフェリーが本島と人と物がつながる唯一の手段でした。フェリーが寄港する時には、ほぼすべての島民が港に集まると言っても過言ではありません。でも海が荒れるとフェリーが寄港できず、次の便は数日後。
僕たちが滞在していたとき、ちょうど若い女性の先生が赴任してくる日と重なりました。港には島民が集まり、みんなでその先生を盛大に出迎えていました。若い人が島へ来てくれることを、島全体で心から喜んでいる。その光景は、今でも目に焼き付いています。
もちろん、僕は離島診療だけでなく、離島に興味があってそのプログラムに参加しました。
港の底まで見えるほど透明な海。泳いだり、魚を釣ったり、その魚を食べたり、島を歩いて回ったり。あれほど美しい海を見たのは、そのときが初めてだったかもしれません。
離島と、鹿児島と、歯科。
三つの思い出が一気につながった今回の「ドキュメント72時間」。画面を見ながら、学生時代の空気や海の色までよみがえってきました。
あのとき一緒にトカラへ行った旧友に、久しぶりに連絡してみようかな。







