最近では、歯型を取る際に、従来の歯科用の粘土ではなく、デジタルデータで取得することが一般的になってきました。デジタルデータを技工所に送信し、そのデータを基にソフトウェア上で詰め物などを設計・作成することが、歯科業界では当たり前になりつつあります。しかし、その一方で、技工指示書は紙ベースで作成され、FAXで送信されるという、不思議な現象がまだ残っています。さらに、若いスタッフの中には、FAX自体を見たことがない人も増えており、技術の進化と現場の実態とのギャップが浮き彫りになっています。
なぜ医療機関ではFAXがまだ使われているのか?
1. 安全性と信頼性
FAXはインターネットを介さないため、サイバー攻撃のリスクが少ないと考えられています。また、インターネット接続がなくても利用できるため、その信頼性は高いと言えます。
2. 法的根拠と慣習
日本の医療業界では、依然として紙ベースの記録が法的に認められています。紙の記録は、第三者によるアクセスが難しく、結果的に改ざんされにくいため、保存や共有において安全とされています。また、IT化やデジタル化に対して苦手意識を持つ医療従事者が多いのも事実です。長年の業務フローを変えることには大きなハードルがあり、そのため紙媒体やFAXの使用が続けられる傾向があります。
3. IT技術への対応の遅れ
小規模なクリニックでは、電子カルテやクラウドシステムの導入が進んでいないケースも少なくありません。近年、マイナンバーカード対応のためインターネット環境が整備されつつありますが、それまではインターネット回線自体を導入していない歯科医院も多くありました。そのため、FAXが主要な通信手段として使われ続けているのは当然のこととも言えます。
結論
医療機関でFAXがまだ使用されている背景には、安全性、法的根拠、そして業務慣習が大きく関わっています。デジタル化が進む中で変化は少しずつ見られますが、FAXから完全に移行するにはまだ時間がかかりそうです。