歯周病
歯周病
2001年にギネスブックに登録された「全世界で最も蔓延した病気」とは何かご存知でしょうか?実は、それが「歯周病」なのです。歯周病とは、歯周組織に起こる疾患の総称であり、細菌感染によって歯肉だけが炎症を起こしている状態を「歯肉炎」、さらに炎症が拡大し歯を支える骨(歯槽骨)まで炎症が起きている状態を「歯周炎」と言います。
細菌は歯周ポケットから歯肉内部に侵入しようとしますが、それを免疫系の細胞や物質が迎え撃っています。この歯周組織が炎症を起こすのは、炎症性サイトカインによる防御反応の作用なのです。歯周炎になると自己免疫の作用で歯槽骨が溶けていってしまい、歯を支える骨がどんどん吸収してしまいます。この状態になると、自然治癒することはなく歯科医院での歯周病治療やメンテナンスを継続しない限り、病状は確実に進行し続けてしまいます。
歯周病を予防するためには、定期的な歯科検診や適切治療が必要です。
軽度
歯茎に炎症が起き、歯との間「歯周ポケット」が深くなります。痛みはまだありませんが、ブラッシング時に出血することがあります。
中等度
炎症が深まり、歯周病菌が顎の骨にまで達しています。歯周ポケットが深くなり、歯はグラグラしはじめます。
重度
顎の骨が半分以上溶けています。歯周ポケットがかなり深くなり、歯はグラグラに。歯ぐきからは膿が出て口臭も増します。ここまでくると、最終的に歯は抜け落ちてしまいます。
※上記のように軽度・中等度・重度と従来の分類方法に則って表記しましたが、2019年に日本歯周病学会が新分類を発表しました。そこでは、歯周病のステージとグレードとよばれる新しい診断フレームワークになっています。
という4つのステップに分かれており、これらの手順を踏むことで正確な診断ができます。
しかし、歯科医以外にはわかりづらい点もたくさんあると思いますので、ここでは簡易的に従来の分類方法を採用させていただきました。
歯周病菌そのものや、細菌に由来する毒素や細胞の炎症を誘発する物質(炎症性サイトカイン)が血流に乗って全身へ流れ、さまざまな疾患の悪化を招く原因になっています。
また、早産・低体重児出産のリスクも高くなるため、出産前の歯科検診はとても重要です。生まれた赤ちゃんに歯周病原菌を移さないよう注意する必要があります。
歯周病の細菌が血流を介して他の部位に広がる可能性があります。研究によると歯周病の患者は心臓病や冠動脈疾患の発症リスクが高いとされています。歯周病の炎症が血管内の炎症反応を引き起こし、血管の収縮や血栓の形成を促す可能性があります。
歯周病によって血液中の炎症性サイトカイン(TNF-aなど)が増えて、インスリン抵抗性が上昇してしまい、血糖値が下がりにくくなり慢性化することで2型糖尿病のリスクが上がります。また、糖尿病が歯周病を悪化させるといった相互に影響する関係にあります。そのため、糖尿病患者の歯周病治療も有効とされています。
炎症性サイトカインが血管内壁に炎症を起こし、そこにコレステロールや免疫系細胞が沈着する。内部に歯周病源細菌のDNAが確認されていることからもプラーク形成の核になっている可能性もある。このように血管が狭くなったり、弾性を失って血流を低下したり破れたりすると命に関わる病気に繋がってしまいます。
腸内細菌の善玉菌が減少し、全身的な代謝異常を起こすことで肝臓が脂肪化しやすくなります。炎症性サイトカインによってインスリンの効きが悪くなり、高血糖・高脂肪の状態になり、さらに高カロリー食の組み合わせで脂肪肝になりやすいです。
炎症性サイトカインの影響で血管障害が起こり、動脈硬化や高血圧状態を招くことで腎機能の低下を起こします。また、高血糖状態が慢性化し、糖尿病を併発することも多く、さらに血流低下を招くために歯周病も悪化しやすくなります。
歯周病由来の炎症性サイトカインが全身性の炎症や血管壁に影響を及ぼし動脈硬化を引き起こす。これが心臓の血管(冠状動脈)で発生したものです。プラークが原因で心臓の血管に血栓が詰まることを心筋梗塞という、虚血性心疾患を発症した人の歯周病罹患率が高いという報告もあります。
炎症性サイトカインによる血管障害と同様の現象が脳血管内で起こったものです。歯周病患者が脳梗塞などの虚血性脳疾患を発症する割合が高いという報告も多数あ離、生命の危険につながる疾患です。
妊娠中の歯周病は早産や低出生体重児のリスクを増加させる可能性があります。
歯周病原細菌に感染することで、関節内の滑膜に炎症を引き起こします。炎症性サイトカインの増加も関節内での炎症反応に拍車をかけると言われています。
口腔内が不衛生かつ歯周病に罹患していると、口腔内細菌数が劇的に増加する。細菌の絶対数が多いほど誤嚥した時に炎症を起こしやすいです。肺炎で死亡するリスクは非常に高いが、死亡した人は歯周ポケットのある歯数が多いことが報告されています。
炎症性サイトカインが全身をめぐることで、血液脳関門(脳内への異物侵入を防ぐところ)の機能を低下させ、細菌や毒素が脳内に侵入してしまいます。それらが神経炎症を慢性化させてしまいます。また、アルツハイマー患者の脳内から歯周病原細菌が検出されたという報告もあります。
プラークは食べ物の残りや細菌が混ざった粘膜状の層で歯や歯茎の表面に形成されます。歯ブラシの磨き残しや口腔衛生状態が悪い場合プラークは歯垢と呼ばれる固まりに変化し歯周病の主な原因となります。
口腔内の細菌は食べ物の残りやプラーク中で増殖します。特定の種類の細菌が増加すると歯茎の炎症が引き起こされ、歯周病が進行する可能性があります。
たばこは歯周病のリスクを増加させます。タバコに含まれる化学物質は歯茎の血管を収縮させ免疫機能を低下させることがあります。これにより歯周病の進行が促進されます。
免疫機能の低下は歯周病の発症や進行する恐れがあります。免疫力が弱まると細菌感染に対する防御機能が低下し歯周病のリスクが高まります。
糖尿病によって高血糖状態が続くと血管に炎症が起こり、血管障害や虚血状態になります。さらに免疫機能が低下し、歯周病菌への抵抗力が落ちることで歯周病が悪化すると言われています。
家族歴がある場合、歯周病に罹患するリスクが高まる可能性があります。長期にわたるストレスは免疫機能を低下させる可能性があります。
歯周病治療は歯科医師による治療、歯科衛生士による専門的ケアと、患者様によるホームケアで成り立つ共同作業です。この3つのどれが欠けても、治療の成功は難しいと言われています。患者様の病気への理解がとても大切ですので、わかり易い説明を心がけています。
最初に歯周病の進行状態を歯周ポケットの深さ、口腔内写真やレントゲン写真も撮影し診断します。また現状のブラッシングでどこが磨けていないのかをよく理解していただいた上で、効果的なブラッシング方法を学んでいきます。
歯石は歯面に付着したプラークに唾液中のリン、カルシウムが混じって石灰化したものです。歯に付着しておりそれ自体の病原性はありませんが、表面がでこぼこしていて、歯垢が付きやすいため、一般的に超音波スケーラーやキュレットスケーラーを使用して取り除きます。
歯槽骨の破壊が大きく、歯周ポケットが深い場合には、ポケットの外から器具で歯垢や歯石を取り除くことは不可能です。このような場合には、歯肉を開いて歯根を露出させ、歯垢や歯石を取り除いて歯根の表面を滑らかに整えます。
治療が終わった後に継続して、良い状態を維持し、再発を防ぐことを言います。
そのためには、歯科医師のチェックと歯科衛生士による専門的なお口の清掃(クリーニング)を定期的に行います。
進行した歯周病の治療が終わった方は、1~3ヶ月のサイクルで来院し安定した歯茎の状態を管理していくことが大切です。