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訪問歯科診療 は、通院困難な方の口腔ケアを支える重要な役割を担っています。寝たきりや認知症などにより、歯科医院への通院が難しい方にとって、自宅や施設で歯科治療を受けられる訪問歯科診療は、まさに欠かせないものと言えます。
しかし、ニーズが高まる一方で、訪問歯科診療は様々な課題を抱えています。このような問題点を一つ一つ解決することによって、さらに充実した医療サービスにつながることと思います。
訪問歯科診療が抱える課題
まず、 担い手不足の深刻化
訪問歯科診療には、歯科医師や歯科衛生士だけでなく、運転手やコーディネーターなど多くの人員が必要となります。現在の診療報酬体制では、必要とされるすべてのスタッフをそろえることは非常に厳しく、最低限のスタッフで運用している事業所がほとんどだと思います。このような人材不足は、サービス提供体制の構築を難しくしている大きな要因の一つです。
また、一般的な歯科医院の場合、普段は外来に来院される患者さんの治療を実施しています。そのため、お昼休憩の時間帯に訪問診療を実施するか、休診日に対応している歯科医院も少なくないため、歯科医師にとっても時間の工面に苦労されている話をよく聞きます。
次に、患者さんが支払う費用面の課題
訪問歯科診療は、一般的な診療報酬に加えて、訪問診療に関係する診療報酬が加算されるます。さらに診療に関する交通費は患者さん負担のため、患者さんの経済的負担が大きくなってしまうこともあります。
さらに、 認知度不足も
訪問歯科診療の存在を知らない、あるいは利用方法がわからないという方も少なくありません。
訪問歯科診療の現場における苦労
訪問歯科診療は、歯科医院とは異なる環境で行うため、スタッフ側にも様々な苦労があります。
体力面
では、重い機材を持って階段を上り下りしたり、長距離を移動したりすることが多く、肉体的な負担が大きいです。また、患者さんの状態によっては体位を変えることが難しく、医療スタッフが無理な体勢で口腔内を覗き込む必要が生じることも少なくありません。
治療環境
歯科医院のように診療用の椅子や各種機器が使えないことが多く、照明や水道などの設備が不十分な場合もあります。また、削った時に発生する粉塵の処理ができない場合もあり、さまざまな制約の中で診療を行う必要があります。
意思疎通や健康状態などの要因
患者さんの状況や容態によって治療計画を柔軟に変更する必要があり、すべてのケースで最善かつ最適の治療を行えるわけではありません。また、緊急時には迅速に訪問し、対応することを求められます。
患者さん、ご家族との連携
訪問歯科診療では、患者さんご本人だけでなく、ご家族との連携も非常に重要になります。
特に、患者さんご本人と意思疎通の困難な状態の場合、ご家族からの依頼で治療を行うことになります。しかし、ご家族の希望が必ずしも患者さんご本人の希望と一致するとは限りません。
例えば、ご家族は「入れ歯をつくってあげたい」と思われているが、認知機能の低下等によって、入れ歯を口に入れることができなかったりすることもあります。このような認識のズレは、治療をスムーズに進める上で障害となってしまう可能性があります。
そこで、訪問歯科診療では、以下のような治療前後および治療中の情報共有が非常に重要になります。
* 患者さんおよびご家族の現在の状態や治療に対する希望を事前にしっかり確認する。加えて生活背景や価値観を理解する必要があります。
* 治療のメリットとデメリットをわかりやすく説明する。
* 患者さんとご家族にとって最適な治療方針を一緒に検討する。
患者さんご本人、ご家族、そして医療者が協力し、信頼関係を築くことで、より良い訪問歯科診療の提供が可能になります。
訪問歯科診療の未来
訪問歯科診療は、口腔ケアを通して患者さんの健康寿命を延ばすだけでなく、QOL(生活の質)の向上にも大きく貢献できるサービスであり、これからの社会にとってなくてはならない医療サービスであることは間違いありません。
多くの方が訪問歯科診療の恩恵を受けられるよう、さらなる普及が期待されています。そのためには、 環境整備や人材育成など、様々な取り組みを継続していく必要があります。