近年、歯科治療の中で注目を集めている「マウスピース矯正」。透明なマウスピースを装着することで歯並びを整える治療法で、見た目の美しさが特徴です。しかし、この治療法には利点だけでなく、欠点や注意点も存在します。

近年、マウスピース矯正が人気になる中、インターネット上で「格安で矯正可能」「モニター価格」と宣伝し、適切な診断や治療計画を行わないことによるトラブルが大きな話題になりました。適切な診断や治療計画に基づいて治療を進めないと、最終的に治療の失敗や口腔内の健康問題を引き起こすケースもあります。

従来のワイヤー矯正器具と違い、透明なマウスピースは目立ちにくく、日常生活でもほとんど見た目を気にせずに生活できます。

食事や歯磨きの際に取り外せるため、口腔内を清潔に保ちやすいのがメリットです。歯に装着するブラケットと比較しても、虫歯になりにくいのが特徴です。

従来のマルチブラケット装置とは異なる作用機序のため、マルチブラケット治療が不得意とするケースにおいてマウスピース治療を選択できるケースが出てきました。つまり、マウスピース装置の登場によって、矯正治療の幅が広がりました。さらに、マルチブラケット装置と組み合わせることで、さまざまな不正咬合を改善できることがわかってきました。

マウスピース矯正単独では、軽度から中等度の不正咬合（歯並びの乱れ）に適している一方で、重度の症例には向きません。

装置を適切に装着しないと、計画通りに歯が動きません。1日20時間以上の装着が求められるため、自己管理がとても重要です。しっかり使用できないと、シミュレーション通りに歯が動かずに、治療期間が大幅に延長する可能性があります。

マウスピース代がかかるため、他の矯正方法よりも高額になることがあります。

マウスピース矯正は、歯科医にとっても非常に有用な治療法の一つなのは間違いありません。マウスピース治療が得意とする症例と不得意とする症例が存在しますので、専門的な知識に基づいて適用するかどうかを判断する必要があります。

マウスピース矯正そのものは、機材があれば簡単に始められるのは事実ですが、ここに大きな落とし穴があります。他の矯正装置と同様に、マウスピース矯正にもしっかりした知識や適切なトレーニング・経験が必要です。適切でない状態でマウスピース治療を開始すると、歯並びが理想通りに改善されないだけでなく、口腔内の健康にも影響を及ぼす可能性があります。また、歯科医においては、マウスピース治療で不正咬合が改善しなかった場合、従来の矯正装置でリカバリーできる技術も必要です。

マウスピース矯正は、あくまで矯正治療の一つの選択肢に過ぎません。他の矯正装置と同じく、歯科医の知識や経験が治療成功の鍵を握ります。信頼できる歯科医師による診断と治療計画が最も重要だと思っています。

マウスピース矯正は、その利便性と見た目の良さから多くの患者さんと歯科医師に支持されていますが、治療の適応症例やリスクを理解した上で選択する必要があります。歯科医師にとっても専門知識の習得が欠かせません。マウスピースによる矯正治療を検討する際は、適切な診断のもとで治療を進めていくことをお勧めします。