歯科医院の承継問題は、本当に社会問題なのか|名古屋市北区の歯科・歯医者|城北歯科医院・矯正歯科|土日診療

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歯科医院の承継問題は、本当に社会問題なのか

歯科医院の承継問題は、本当に社会問題なのか|名古屋市北区の歯科・歯医者|城北歯科医院・矯正歯科|土日診療

医業承継には大きく分けて三つの場合があります。
 
一つ目は、医療提供体制が緊迫している地域、つまり医療機関が少ない過疎地域での承継
二つ目は、先代院長の急逝などによる突然の承継
三つ目が、一般的な歯科医院の承継、いわゆる「後継者がいない問題」
 
この三つは、同じ医業承継という言葉で語られますが、実際にはかなり性質が異なります。
過疎地域で歯科医院がなくなることは、地域住民の医療アクセスに直結します。これは歯科医院単体の経営問題ではなく、行政が地域の医療提供体制をどう設計するかという問題です。この問題は、医科の分野では広く認知され、多く議論されるようになってきました。歯科の領域でも、人口過疎地における歯科医院の院長の高齢化と後継者不足が顕在化してきており、行政や歯科医師会レベルでようやく対応の必要性が語られるようになってきました。
実際に、講演会の中では行政側の取り組みとして、南魚沼市の支援金制度、福島県のマッチング制度、島根県の取り組みなどが紹介されていました。福島県では、承継してほしい医院の登録が13件ある一方で、面談中なのは1件のみとのことでした。いずれも地域医療を維持しようとする重要な試みですが、紹介された範囲では、制度を整えても十分なマッチングには至っていない現状がうかがえました。ここから見えてくるのは、資金や制度を用意するだけでなく、若い歯科医師がその地域で生活し、働き、将来像を描ける条件まで含めて考える必要がある、ということだと思います。
また、先代院長の急逝による承継は、患者さんへの対応、スタッフの雇用、診療録、閉院手続きなど、緊急時の支援体制の問題です。歯科医師会や大学の同窓会などによる閉院サポートや引き継ぎ支援が重要になる領域だと思います。
一方で、三つ目がいわゆる一般的に語られる承継になります。院長が高齢になり、誰かに医院を引き継いでほしい。しかし子どもは継がない。勤務医にも候補がいない。第三者承継を考えるが、なかなか相手が見つからない。歯科業界でよく言われる「後継者不足」は、多くの場合この話です。
ここで、少し身も蓋もないことを言えば、都市部や歯科医院が多い地域における一般的な承継問題は、必ずしも大きな社会問題とは言い切れない面があります。たとえば、私の城北歯科がなくなった場合、もちろん通ってくださっている患者さんには一時的に大変なご迷惑をおかけします。しかし、信号を渡れば別の歯科医院があります。北へも南へも100メートルほど歩けば歯科医院があります。地域全体として歯科医療が消滅するわけではありません。
では、一般的な承継で本当に困っているのは誰なのか。率直に言えば、困っているのは現在の院長です。何十年もかけて築いてきた医院を閉じたくない。患者さんとの関係を途切れさせたくない。スタッフの雇用を守りたい。医院名や地域での信用を誰かに引き継いでほしい。その思いは自然なものですし、私自身も第三者承継で開業した立場なので、その気持ちはよく分かります。
ただし、それをすぐに「社会問題」と呼んでよいのかは、少し慎重に考える必要があります。都市部の歯科医院承継は、社会全体の医療アクセス問題というより、個別医院の出口戦略、経営資産の承継、患者さんやスタッフへの責任の問題として捉えた方が実態に近いのではないでしょうか。
この承継開業には、大きなメリットがあります。地域での認知がすでにあり、通っている患者さんがいます。スタッフもいる。ゼロから始めるより、集患や求人にかける時間も費用もリスクも抑えられる部分があります。しかし、今回の神奈川県歯科医師会のポスター発表では、新規開業と承継開業を比較した場合、初年度の患者数は承継開業の方が多い一方で、5年後を見ると新規開業の方が患者数が増えている傾向がある、という興味深い結果が示されていました。つまり承継開業は、比較的安定した状態から始められる一方で、その後の医院の成長という点では課題を抱えやすい可能性がある、ということです。
この理由はなんなのでしょうか? ポスター発表者は、「承継開業では診療チェアー数、つまり医院の規模に制約があるのではないか」、などといった考察を示されていました。たしかに、既存の医院を引き継ぐ以上、建物の広さ、ユニット数、動線、スタッフ配置には限界があります。新規開業のように、自分の診療スタイルや将来の拡張性に合わせて一から設計できるわけではありません。
ただ、私自身が承継して最も強く感じているのは、医院の規模の問題以上に「承継した患者さん・スタッフの年齢層」の問題があるのではないかと考えています。承継時の当院は、1日の来院患者数こそ50人を超えていました。しかし、その内訳を見ると、60歳以上の患者さんが全体の約75%を占め、若い世代の来院が極端に少ない状態でした。数字だけを見れば、患者数の多い医院です。しかし、その患者年齢構成は、将来に向かって自然に増えていく構造ではなく、時間とともに患者さんが減少していく可能性を抱えた構造であり、すぐに対応を検討する必要がありました。
承継開業の難しさはここにあります。初年度の患者数が多いことはとても大きなメリットですが、その患者さんの数は「これから増えていく患者数」ではなく、「過去の医院が積み上げてきた患者数」であることが多いと感じます。つまり、承継開業はスタート地点が高い一方で、そのままでは下降線をたどっていく可能性があります。さらに、承継開業ではすでにある医院のイメージ、患者層、診療内容、スタッフ文化、予約の流れを引き継ぎます。これは強みであると同時に、変化を難しくする要因にもなり、実際にさまざまな苦労をしてきました。
逆に、新規開業の場合、初年度は患者数が少なくても、医院のコンセプト、内装、設備、診療時間、Web発信、予約システム、スタッフ採用などを、最初から若い世代や地域の将来需要に合わせて設計できます。
さらに、歯科医院が次の段階に進むためには、設備や技術への投資が不可欠です。CT、マイクロスコープ、口腔内スキャナー、滅菌設備、予約システム、セルフレジ、院内ネットワーク、スタッフ教育、労務環境の整備。これらは単に新しい機械を入れる話ではなく、診断精度を高め、安全性を確保し、スタッフが働き続けられる環境を作るための投資です。
しかし、そのためにはまとまった資金が必要になります。昨今の診療報酬体系の中で、保険診療を中心に地域医療を支えながら、同時に大きな設備投資や人材投資まで十分に行うことは簡単ではありません。その意味で、自費診療は単に収益を増やすためのものではなく、医院を次の段階へ進めるための選択肢の一つでもあると言えます。もちろん、保険診療を軽視するものではなく、患者さんの希望、納得、経済的負担に十分配慮することを前提とした上で、一つの選択肢として提供する必要があります。自費診療を含めた多様な治療選択肢を提供し、その収益を設備や人材に再投資していく循環は、医院の持続性を考える上で無視できない要素だと思います。新規開業医院と承継医院では、保険売上と自費売上の割合にも大きな差があるという結果も示されており、承継医院では投資に資金を回しにくい構造になっていることも考えられます。さらに承継医院では、患者層や医院文化の変化に時間がかかるため、この再投資の循環を作ることも簡単ではありません。過去の信頼を守りながら、未来の医療に必要な投資をどう行うか。ここに、承継開業の本質的な難しさがあります。
そして最後に、今回のシンポジウムを聞いていて違和感を感じたことがありました。それは、今回の学会のシンポジウムにおいては、これから承継開業したい若い先生側の視点がほとんどなく、誰かに承継してもらいたい側の視点ばかりが語られていました。
なぜ、子ども世代は自分の医院に戻ってこないのか。なぜ若い勤務医がその医院を引き継ぎたいと思わないのか。なぜ、多くの歯科医院で承継がうまくいかないのか。そもそも、どのような条件があれば承継は成り立つのか。ここを考えないまま、「地域医療を守るために誰かが継ぐべきだ」と語っても、令和の若い世代には刺さらないのではないでしょうか。
その意味で、ある先生のご意見がとても的を射ていたように思います。年長世代だけがクローズな場所で承継の大切さを語っていても、今の学生や若い歯科医師には届きにくい。大切なのは、「承継にはこういう可能性がある」と伝えると同時に、「こういう条件が整っていないと難しい」という現実を、もっと開かれた形で伝えることではないでしょうか。
承継は、情緒や使命感だけでは成り立ちません。立地、患者層、設備、資金、スタッフ、診療方針、将来性、そして引き継ぐ側の人生設計。これらが一定程度かみ合って初めて、現実的なマッチングになります。
医業承継を本気で考えるなら、「誰か継いでくれないか」ではなく、「若い世代が引き継ぎたいと思える医院とは何か」を問う必要があります。クローズな関係性の中で話をまとめるのではなく、もっと門戸を開き、情報を開示し、若い歯科医師が判断できる材料を増やしていくことが必要です。
承継とは、過去を保存することではありません。地域に残すべき医療を、次の世代が引き受けられる形に作り替えることです。その視点がなければ、承継問題はいつまでも「後継者がいない」という嘆きのままで終わってしまうのではないかと思います。