
先日、「虫展」に行ってきました。
この虫展のすごいところを一言で表すなら、
今まで、「小さくてよく見えない」と通り過ぎてしまっていた虫たちに、脚光を浴びせたこと
昆虫の標本を見ていると、「小さくて形がよくわからない」「ルーペで見れば、なんとなくわかる」ということがよくあります。ところが今回の展示では、そうした小さな虫たちが、人の背丈を超えるほどの大きさにまで拡大されていました。
しかも、ただ大きく引き伸ばしただけではありません。
体の表面に生えている一本一本の細かな毛、複雑な脚の形、昆虫特有の凹凸、光の当たり方によって変化する色彩まで、驚くほど精密に再現されています。普段は見過ごしてしまう小さな虫の中に、これほど複雑で美しい世界が隠れていたのかと驚かされました。
この展示を実現するためには、小さな昆虫をさまざまな角度から高精度のカメラで撮影し、膨大な写真をもとに立体的な3Dデータを構築していくそうです。さらに、実物を観察しながら色や質感を加えることで、超拡大しても細部まで観察できる3D模型が完成します。
この説明を聞きながら、僕は歯科で使っている口腔内スキャナーのことを思い浮かべました。
現在の歯科では、お口の中を小型のカメラで連続的に読み取り、歯や歯ぐきの形を3Dデータとして記録する「光学印象」が広く使われるようになっています。従来のように、粘土のような材料を口に入れて歯型を採るのではなく、スキャナーを動かすことで、お口の中の立体的な形を画面上に高精度で再現できます。
形を3Dデータにするという点では、虫展の技術と歯科のスキャナーには共通する部分があります。歯科用スキャナーにも十分に高い精度があり、小さな歯の凹凸や歯並びを記録することができます。
一方で、「形を正確に記録すること」と「色や質感を美しく再現すること」は、少し違う技術なのだろうとも感じました。
現在の口腔内スキャナーでもカラーデータは採得できますが、一般的な高性能カメラで撮影した写真ほど、繊細で鮮明な色彩を再現することは得意ではないのかもしれません。昆虫には、金属のような光沢、見る角度によって変化する色、透明感のある羽など、実に多様な表現があります。その美しさまで再現するには、形のデータだけでなく、カメラによる精密な色情報も必要なのでしょう。
そして、展示を見ながら、昆虫標本の未来にも思いを馳せていました。
従来の、標本として残すことに加えて、一匹一匹を精密な3Dデータとして記録し、「デジタル標本」のデータベースをつくることが一般的になるのではないでしょうか。
3Dデータであれば、貴重な標本に直接触れることなく、世界中のどこからでも観察できます。自由に拡大したり、角度を変えたり、異なる種類の昆虫を並べて比較したりすることもできます。実物の標本とは違う、新しい保存と研究、展示の形が生まれていくのかもしれません。
そう考えると、これは僕たちが歯科模型をデジタル化して管理していることと、とてもよく似ています。
現在では模型をスキャンして3Dデータにすることで、省スペースで保存でき、必要なときには画面上で拡大したり、過去と現在の歯並びを比較したりできます。
小さな虫の一本の毛も、歯のわずかな凹凸も、デジタル化することで、保存するだけのものから「いつでも見て、比べて、活用できるもの」へと変わります。
「小さいから見えない」で終わらせず、見える形に変える。
そして、形ある標本を、時代を超えて残せるデータへ変えていく。
虫展を見に行ったはずが、いつの間にか、昆虫と歯科模型の未来を重ね合わせていました。







